100万円を超えたときは、単純にうれしかった。自分たちにも貯められるという感覚があった。しかし、100万円では家は買えない。頭金、諸費用、引っ越し、家具家電、予備資金。住宅購入を考えると、100万円はすぐに消える。貯金としては大きいが、人生の選択肢を変えるにはまだ薄い金額だった。

そこで次の目標は、500万円になった。純金融資産が500万円を超えたのは、2007年の年末だった(なお、当時は妻の奨学金が残っていたため、厳密な意味での世帯の純金融資産ではない。ここでは、当時自分たちが意識していた金融資産残高として500万円という数字を扱っている)。
毎月10万円とボーナスで積み上げた
以前の記事でも書いた通り、当時の家計の方針は単純である。妻の収入で日常生活を回す。私の給料は、家賃と車の維持費以外、基本的にすべて貯蓄に回す。ただ、これができたのは、会社の家賃補助があったことも大きい。地方勤務だったこともあり、当時の住宅費は毎月2万円ほどで済んでいた。手取り42万円に対して、住宅費2万円。この条件は、かなり大きかった。

資産形成というと、投資利回りや節約術に目が行きやすい。しかし初期段階では、固定費の低さの方が効く場面がある。住宅費が低ければ、毎月の貯蓄額を大きくできる。毎月の貯蓄額が大きければ、目標金額までの時間が短くなる。
ただ、この単純さが強かった。
27歳の500万円の位置づけ
2007年に500万円を超えたとき、27歳頃だった。金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査」を見ると、2007年の二人以上世帯全体では、金融資産保有額は平均1,259万円、中央値500万円である。金融資産を保有している世帯だけに限ると、平均1,624万円、中央値892万円となっている。
ただし、これは全世代を含めた数字である。
20代世帯だけで見れば、平均値も中央値も当然もっと低くなる。20代後半の夫婦で純金融資産500万円というのは、少なくとも「普通に貯まっている」というより、かなり意識して積み上げた側だったと思う。
ただ、500万円はゴールではなかった。むしろ、次の判断が始まる金額だった。住宅購入を考えると、500万円は頭金として現実味が出てくる。だが、頭金に入れれば一瞬で消える。諸費用や家具家電まで考えると、500万円でもまだ足りない。つまり、500万円は安心そのものではなく、選択肢の入口だった。
構造を変えれば貯まるという実感
500万円までの道のりで感じたのは、資産形成は気合いより構造で決まるということだった。毎月3万円を貯めていた頃は、節約している感覚が強かった。
昼食、コンビニ、飲み会、服、家電、旅行。少しずつ調整しながら残す。これはこれで大事である。しかし、共働きになり、住宅費が月2万円程度に抑えられ、私の給料を大きく残せるようになると、貯まる速度が変わった。月3万円を残す家計と、月10万円以上を残す家計では、時間の進み方が違う。
年間36万円と、年間120万円。そこにボーナスが乗る。100万円のときに得たのは、「コツコツやれば貯まる」という実感だった。500万円のときに得たのは、「家計の構造を変えれば速度が変わる」という実感だった。
収入を増やす。固定費を抑える。生活水準を簡単に上げない。ボーナスを使い切らない。書くと当たり前だが、当たり前のことを数年単位で続けると、家計はかなり変わる。
この頃から、少しずつ投資にも興味を持ち始めた。安泰とは言えない。だが、同年代と比べれば貯蓄があるという感覚はあった。それは、将来に対する小さな自信にもつながっていたと思う。もっとも、その後にリーマンショックを食らうわけだが、それはまた別の話である。
しかし、家はまだ買えなそうだった
500万円に到達しても、すぐに家を買ったわけではない。住宅購入を考えると、まだ設計が必要だった。当時の目標は、2年後の2009年末に1,000万円を貯めることだった。もっとも、これはその後の住宅購入によって貯蓄を使うため、達成されないのだが。
新築住宅を買おうとすれば、かなり大きな住宅ローンを抱えることになる。新築はきれいで、設備も新しく、気分も上がる。だが、その気分に数千万円のローンが付いてくる。これは重い。
会社員として給料をもらいながら資産を作る場合、固定費を増やしすぎると、その後の選択肢が一気に狭くなる。住宅ローン、車、保険、教育費。固定費が積み上がると、給料日前後のやりくりに人生が吸い込まれていく。それは避けたかった。だから、500万円に到達したあとも、貯蓄を続けた。
同時に、妻の奨学金も残っていた。月々の返済は妻が進めていたが、500万円に到達した時点では、まだ完済していなかった。
この奨学金は、住宅購入後の2011年に、残っていた約200万円を一括返済することになる。
つまり、500万円に到達した時点の家計は、現金が増えていた一方で、負債も残っていた。だからこそ、500万円は安心そのものではなく、次の設計に入るための金額だった。
単純に貯金残高だけを見れば、200万円の一括返済は大きな減少である。しかし、住宅購入を考えるうえでは、将来の固定負担を減らしておく意味があった。
その後もコツコツと貯金して、住宅購入前には貯金が900万円まで増えた。そしてその後、築30年の中古住宅を1,250万円で購入することになる。
まとめ
純金融資産500万円に到達したとき、100万円のときのような単純な高揚感はなかった。もちろん、うれしさはあった。通帳の数字を見て、ここまで来たという手応えもあった。ただ、それ以上に強かったのは、「このお金をどう使うか」という判断の重さである。500万円は安心そのものではなく、住宅購入を現実の選択肢として考え始めるための入口だった。妻の就職、会社の家賃補助、生活水準を上げない方針によって、家計の構造を変えれば貯蓄速度は変わる。その実感を得られたことは大きかった。一方で、家を買うにはまだ足りない現実も見えた。達成感と不足感が同時にある。500万円とは、そういう金額だった。
その後も貯蓄を続け、住宅購入前には貯金900万円まで積み上げた。そして中古住宅を購入し、住宅ローンを抱えたあと、2011年に妻の奨学金約200万円を一括返済することになる。
