【退職まで3,056日】
アメリカの年収を日本円に換算すると、ときどき感覚がおかしくなる。1ドル158円換算すると、年収10万ドルなら約1,580万円。年収15万ドルなら約2,370万円。年収20万ドルなら約3,160万円。
日本でこれだけの年収を聞けば、かなりの高所得という印象になる。ところがアメリカでは、住む場所によっては年収20万ドルでも「Middle Class」、つまり中間所得層に含まれる。
SmartAssetが2026年に発表した「What It Takes to Be Middle Class in America」を見ると、この違いがかなり鮮明に表れている。
SmartAssetは米国勢調査局の2024年American Community Surveyのデータを使い、アメリカ50州と主要100都市についてMiddle Classの所得範囲を算出している。Middle Classの定義は、その地域の世帯所得中央値の3分の2から2倍である。このデータを1ドル=158円で日本円に換算してみると、日本人が持っている「年収の感覚」とアメリカの実態との間に、かなり大きな差があることが分かる。そしてCaliforniaで実際に暮らしていると、その理由もよく分かる。
アメリカは確かに収入が高い。しかし、同時に生活するために出ていく金額も非常に大きいのである。
Middle Classとは「普通に暮らせる年収」ではない
まず最初に整理しておきたいのが、Middle Classという言葉の意味である。SmartAssetでは、その地域の世帯所得中央値に対して、3分の2から2倍の所得を持つ世帯をMiddle Classとしている。
たとえば世帯所得中央値が10万ドルの地域なら、下限は約6万7,000ドル。上限は20万ドル。この間がMiddle Classとなる。したがって、ここでいうMiddle Classとは、
「この収入があれば住宅が買える」「子ども二人を余裕を持って育てられる」「老後資金まで十分に積み立てられる」という意味ではない。
あくまでその地域の所得分布の中で、どのあたりに位置するかを示す相対的な指標である。「年収3,000万円でも中流」という数字だけを見ると驚くが、それは「3,000万円あれば普通の暮らししかできない」という意味ではない。一方で、それだけ高い所得を得ている世帯が実際に多く存在する地域であることも事実である。
アメリカでは「中流」の基準が州によってまったく違う
日本からアメリカをると、一つの巨大な国として考えがちである。しかし所得という観点では、アメリカを一つの数字で表すことにはかなり無理がある。
SmartAssetの2026年調査を見ると、Massachusetts、New Jersey、Maryland、Californiaなど、Middle Classの上限が20万ドルを超える州がある。1ドル158円で換算すると、20万ドルは3,160万円になる。
つまりこれらの州では、世帯年収3,000万円を超えても、所得分布上はMiddle Classに含まれる。
一方、所得水準の低い州ではMiddle Classの水準も大きく下がる。最も低いMississippiでは、Middle Classは約3.9万〜11.8万ドルである。Californiaの約6.7万〜20万ドルと比べると、その差はかなり大きい。
つまり、同じ「年収10万ドル」でも、Californiaではほぼ世帯所得中央値付近なのに対し、MississippiではMiddle Classのかなり上側に位置する。「アメリカで年収10万ドル」だけでは、その人が高所得なのか平均的なのかは判断できないのである。
どこに住んでいるのか。ここまで分からなければ、年収の数字だけではほとんど意味を持たない。
Californiaでは世帯年収3,000万円でもMiddle Class
その中でも、日本との違いが分かりやすいのがCalifornia。SmartAssetによるCaliforniaのMiddle Classは、
- 下限:66,766ドル
- 世帯所得中央値:100,149ドル
- 上限:200,298ドル
これを1ドル158円で換算すると、
- 下限:約1,055万円
- 中央値:約1,582万円
- 上限:約3,165万円
となる。つまりCaliforniaでは、世帯年収およそ1,000万円から3,200万円までがMiddle Classという計算になる。日本で世帯年収1,500万円と聞けば、かなり高い所得という印象になるが、Californiaでは、それがおおむね中央値なのである。
Californiaで暮らすと「すべてが高い」
私はCalifornia州に住んでいるが、こちらで暮らしていて強く感じるのは、単純にすべてが高いということである。住宅費。食料品。外食。保険。医療。教育。車。修理やメンテナンス。美容院をはじめとしたサービス料金。
月々の住宅費や生活費を円換算すると、日本で考えていた生活費の感覚とはまったく違う数字になる。それでもCaliforniaで生活していれば、こうした金額を毎月普通に支払っていくことになる。ここまで来ると、「アメリカでは給料が高い」という一面だけでは、実態を説明できない。
正確には、「収入も高いが、生活するために動いている金額そのものが大きい」のである。
都市によってはさらに別世界になる
California州全体でも所得水準は高いが、都市単位になるとさらに極端になる。SmartAssetの2026年調査で、Middle Classの上限が最も高かった都市はSan Joseである。San Joseでは、
- 下限:98,817ドル
- 世帯所得中央値:148,226ドル
- 上限:296,452ドル
となっている。
1ドル158円で換算すると、
- 下限:約1,561万円
- 中央値:約2,342万円
- 上限:約4,684万円
である。
つまり、所得分布上は世帯年収4,700万円近くまでMiddle Classである。もちろん、4,700万円がなければ生活できないという意味ではない。それでも、世帯所得中央値そのものが約2,300万円であることにはかなりインパクトがある。日本で「世帯年収2,300万円」と聞いたときのイメージと、San Joseでの2,300万円相当の所得が持つ意味は、まったく同じではない。
では日本のMiddle Classはいくらになるのか
ここで日本と比較してみる。厚生労働省の「2024年 国民生活基礎調査」によれば、日本の1世帯当たり平均所得は536万円、所得中央値は410万円である。中央値とは、世帯を所得の低い順に並べたとき、ちょうど真ん中に位置する金額である。この410万円に、SmartAssetと同じ中央値の3分の2から2倍というルールを機械的に適用してみると、
- 下限:約273万円
- 中央値:410万円
- 上限:820万円
となる。つまり同じ計算方法を使えば、日本のMiddle Classは、およそ世帯年収270万円から820万円となる。もちろん、日本政府がこの範囲をMiddle Classと定義しているわけではない。あくまで日米を同じ計算方法で比較するための仮定である。しかし、数字を並べると差は明確である。
日本とCaliforniaを並べるとこうなる
Middle Classの範囲を並べると、
日本:約273万円〜820万円
California:約1,055万円〜3,165万円
CaliforniaのMiddle Classの下限は、日本のMiddle Class上限をすでに超えている。中央値で比較しても、日本は410万円。Californiaは約1,582万円。名目上の金額だけを比較すると、とてつもない差である。
アメリカが高いだけではなく、日本の賃金が伸びてこなかった
バブル崩壊後、日本企業はコスト削減や雇用維持を優先し、賃金を大きく上げない経営が長く続いた。デフレも長期間続いた。企業側から見れば、価格を上げにくいので人件費も上げにくい。労働者側も、転職によって大幅に給与を上げるという動きがアメリカほど一般的ではなかった。
さらに非正規雇用が増え、平均賃金を押し下げる方向にも働いた。結果として、企業利益や生産性が改善する局面があっても、それが賃金に十分反映されない状態が続いた。最近になって人手不足や物価上昇によって賃上げが進み始めているが、長期間にわたって広がった海外との所得差を一気に埋めるほどではない。
さらに現在の日本には円安が重なっている。今回の計算で使っている1ドル158円という為替レートでは、アメリカの給与を円換算した数字が非常に大きくなる。
つまり日本人は、国内で生活している限りそれほど急激に貧しくなった実感がなくても、海外との比較では相対的に所得が下がっているのである。
外国人から見ても、日本の給与は魅力を失いやすい
この問題は、日本人だけの話ではない。日本が今後、海外から人材を呼び込みたいと考えたときにも大きな問題になる。外国人労働者にとって重要なのは、「日本円でいくらもらえるか」だけではない。その給与をドルやユーロ、自国通貨に換算したとき、どのくらいの価値があるかも重要である。
日本で年収800万円を提示したとする。日本人から見れば、かなり悪くない給与である。しかし1ドル158円なら約5万1,000ドルである。
世界市場で争われる高度人材にとって、それが魅力的な給与なのかという問題が出てくる。しかも、母国へ送金したり、将来別の国へ移ったりすることを考えれば、通貨の強さは無視できない。すなわち、有能な人材は他国に集中し、日本は、そのおこぼれの人材が集まる結果、治安の悪化というリスクも負っている。
少しずつ、相対的に貧しくなる
ここで少し怖いのは、日本国内だけで生活していると、この変化が見えにくいことである。給与が500万円から翌年いきなり300万円になるわけではない。いくらインフレが厳しいと言っても、スーパーの価格も、一晩で2倍になるわけではない。
しかし海外との比較で見ると、別の景色が見える。海外の給与は上がる。日本の給与はそれほど上がらない。さらに円が弱くなる。すると、日本人の持つ所得や金融資産の国際的な購買力は少しずつ低下する。
これは、突然貧しくなるのではなく、世界との比較で少しずつ相対的に貧しくなるという変化である。
個人としてどうするか
日本で生活し、日本企業で働き、日本円で給与を受け取り、資産までほぼすべて日本円で持ち、日本企業だけに投資しているとする。すると、自分の経済生活の大部分が日本という一つの経済圏に集中する。
これでは、日本経済や円の価値が長期的に低下したとき、その影響をかなり強く受けることになる。だからこそ、資産まで日本だけに置かないという考え方が重要になってくる。
外国株に投資するという考え方
そこで出てくるのが外国株である。たとえばアメリカ株や、世界全体に分散された株式へ投資する。これは単に、「アメリカ株の方が儲かりそうだから」という話ではない。日本で働き、日本円で給与を得ている人にとっては、人的資本がすでに日本にかなり集中しているとも考えられる。
仕事が日本経済に依存している。給与も日本円である。将来受け取る年金も基本的には日本円である。そう考えると、金融資産まで100%日本に置く必要はない。むしろ海外株式を持つことで、世界中の企業が生み出す利益の一部を、自分の資産に取り込むことができる。
日本の賃金が伸び悩んでも、世界経済が成長すれば、その恩恵を受ける可能性がある。円が弱くなれば、外貨建て資産の円換算価値が上昇することもある。もちろん逆もある。円高になれば外国株の円換算額は下がる。海外株式自体が下落することもある。
外国株に投資すれば必ず豊かになる、という話ではない。重要なのは、日本という一つの国だけに、自分の所得と資産の両方を集中させないという考え方である。
これは日本を否定する投資ではなく、自分の人生全体を一つの経済圏に依存させないための分散と考えたほうが良い。

まとめ
アメリカではMiddle Classの所得水準が日本よりかなり高い。特にCaliforniaでは世帯年収1,000万〜3,000万円台でもMiddle Classに入る。一方で、実際に暮らすと住宅費や食費、保険、サービス料金など、あらゆる支出も高い。つまり、アメリカは収入も高いが、支出も高い。
日米の差がここまで大きく見える背景には、日本の賃金が長く伸びてこなかったことと、円安がある。日本で働き、日本円で給与を得ているなら、金融資産まで日本だけに集中させる必要はない。
日米の可処分所得の絶対値の差は拡大している。これは、今ある程度投資に回さないと、ますます貧しくなるという可能性をはらんでいる。外国株や世界株を持ち、世界の成長を自分の資産にも取り込むという考え方は、今後ますます重要になる。
参考資料
SmartAsset, “What It Takes to Be Middle Class in America – 2026 Study”, February 26, 2026. 米国勢調査局の2024年American Community Surveyをもとに、50州および米国主要100都市のMiddle Class所得範囲を算出。
厚生労働省「2024(令和6)年 国民生活基礎調査」。1世帯当たり平均所得536万円、所得中央値410万円。
※本記事のドル円換算は、比較のため1ドル=158円で統一した。
